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4、四、半人马之夜 “焦班尼, ...
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四、半人马①之夜
——快看,他的影子越来越近,缩成一团,狂追着他!
焦班尼吹着凄凉的口哨,沿着两排黑漆漆的扁柏走下坡道。
坡下立着一盏巨大的路灯,闪耀着刺目的青白色光芒。随着焦班尼朝路灯的方向越走越近,刚才像怪物一样的模糊长影子也渐渐变得又浓又黑,举手投足间已绕到焦班尼身边。
——他是个了不起的火车头!前面是斜坡,速度要快。现在要越过那个电灯了!快看,这下他的影子成了圆规,绕了一圈又来到了前面。
焦班尼一边幻想着,一边大步流星地从路灯下走过去。这时,白天坐在他前排的扎内利穿着一件崭新的尖领衬衫,从灯光对面的昏暗小路里窜出来,与焦班尼擦身而过。
“扎内利,你是去放乌瓜灯——”
焦班尼的话还没说完,那孩子就在他身后扔来一句:“焦班尼,你爸爸给你带海獭皮外衣来了!”
焦班尼感到胸口一阵发冷,心中无处不在骚动嘶吼。
有传言说,焦班尼的父亲在猎海豹的偷猎船上伤了人,现在正远在海峡小镇的监狱里坐牢。所以,今夜大家都聚集在城市的广场上,一起唱着巡星之歌,往河里放青乌瓜灯,过着快乐的半人马之夜;而焦班尼却穿着破破烂烂的衣服,去山下的城镇尽头取久病在床的母亲的牛乳。
“什么事?扎内利!”焦班尼高声回敬,但查内利已经跑进了对面那栋种着桧叶的房子里。
他明明没有做坏事,为什么扎内利要说那种话呢?他的父亲绝不可能被关在监狱里,他的父亲绝不会做坏事。
虽然爸爸去年夏天刚回来的时候吓了他一大跳,但焦班尼马上就喜笑颜开了——解开行李一看,一双鲑鱼皮做的靴子、驯鹿犄角等等……他不知有多么高兴。焦班尼把这些东西带到学校去给大家看,连老师都来旁观。那些东西现在还在标本室里。
扎内利也太过分了,逃走的时候就像个老鼠。他又没有招惹别人,扎内利是个笨蛋。
焦班尼胡乱想着各种事情,穿过被各种彩灯和树枝装饰得十分漂亮的街道。
钟表店的店里亮着霓虹灯,每隔一秒,用红石头磨成的猫头鹰之眼就会忽地转动;海蓝色的厚玻璃盘上承载着各式各样的宝石,像星星一样缓缓旋转,对面便有铜制人马缓缓绕来;正中用绿色芦笋叶装饰着黑色的圆形星座一览表。
焦班尼忘我地看着那张星座图。
这张星座图比白天在学校看到的星空图要小很多,但只要按照日期和时间把盘子对准,便会看到那时的天空呈现在椭圆形里。在它的中央,纵横上下的银河形成一条朦胧的带状;在它的下面,好似微微爆炸,冒着热气;在它的后面还立着一个三脚架的小望远镜,泛着黄色的光。最后面的墙上挂着一幅很大的星图,上面把天上的星座描绘成不可思议的野兽、蛇、鱼和瓶子等形状。
天上真的有天蝎和勇士吗?他真想在银河里漫步。焦班尼呆呆地站了很久。
啊,他现在每天早上天不亮就先送两个小时的报纸,放学后还要到活版印刷厂捡铅字——如果能轻松一点就好了。那样的话,他在学校里也像以前一样有趣吧!不管是人马还是投球,他都不会输给任何人,拼尽全力。但现在谁也不和他交往了。他变成了一个人。
焦班尼突然想起母亲的牛乳,便离开了那家店。虽然还是很在意身上这件憋屈的外衣,却反而故意挺起胸膛,大摇大摆地穿过街道。
空气清澈得像水,街道和商店在其中流淌而过,路灯都被碧绿的冷杉和楢树所包围,电气公司前的六棵梧桐树上亮着许多豆子大小的小彩灯,仿佛置身人鱼之都。
孩子们都穿着崭新的衣服,吹着《巡星之歌》②调子的口哨,大声喊着“半人马座,洒下甘露”跑着,燃烧着蓝色的镁光烟花,开心地玩着。
但焦班尼却不知何时又深深地垂下了头,心里想着与周围的热闹气氛相违的迥事,急匆匆地向牛乳店奔去。
妈妈真的很可怜。尽管身体吃不消,但还是硬着头皮到外面去拔卷心菜的杂草,割燕麦稻草。
有天晚上,母亲心悸得厉害,微弱地叫唤着“焦班尼”,要他倒热水。母亲喘着粗气,唇色都变了。但家里只有焦班尼一个人。他像个傻瓜一样,只会点火烧热水。暖手、用湿布敷胸、冷却额头……焦班尼做了各种各样的事,母亲还是浑身疲软得提不起劲。他不知道有多痛苦。
没过多久,焦班尼来到了城郊的尽头,几棵白杨树高耸至星。
他走进牛乳店的漆黑的大门,站在厨房前,牛圈的气味扑鼻而来。焦班尼摘下帽子说了句“晚上好”。可屋里一片漆黑,没有人。
“晚上好,打扰了!”焦班尼站得笔直,又叫门。
过了一会儿,一个上了年纪的女仆慢慢走了出来。她看起来身体不太好,嘴里问焦班尼有什么事。
“那个,今日的牛乳没有送到我家,我是来取的。”焦班尼尽力解释。
“现在主家没人,我又不知道该怎么做,请明天再说吧。”那人揉着红肿的眼袋,俯视着焦班尼说道。
“我母亲病了,今晚拿不到会很困扰。”
“真是可怜,那么请过一会儿再来。”女仆说完便走了。
“是吗?那就谢谢了。”焦班尼鞠了个躬,离开厨房。
不知为何,焦班尼的泪水突然涌了出来。
如果今天有一枚银币,焦班尼无论从哪里都可以买炼乳回家。啊,他多么想要钱啊,青苹果也行。柯贝内拉真是个大好人。今天在操场慷慨解囊,送了他两枚银币。
他为什么不能活得像柯贝内拉一样呢?柯贝内拉是个伟大的人,无比高大,总是在笑。虽然一年级的时候还是个新手,但现在已经是最棒的班长了,谁拍马都赶不上他。柯贝内拉的算术也好,即使是费力的本利计算法,只要稍微动动脑筋就能马上算完;绘画也十分优秀,柯贝内拉写生过水车,那幅画即使是大人也无法比及。如果他和柯贝内拉是朋友该有多好啊。柯贝内拉从不说别人坏话,而且没有谁觉得柯贝内拉不好。
但是,啊,妈妈现在在家里等着他。他还是早点回去吧,虽然没有取到牛奶,但焦班尼还是想亲吻母亲的额头,再和她聊聊钟表店的装饰。
焦班尼正要转过十字路口,却看到对面通往大桥方向的杂货店前,几个映着朦胧黑影的白衬衫乱入。六七个学生吹着口哨,笑着,各自拿着乌瓜灯笼走了过来。
那说笑声和口哨声太耳熟了,一听就知道是焦班尼的同班同学。焦班尼本想往回走,但又转念一想,气势汹汹地向那边走去。
你们是去河边吗——焦班尼想说,却觉得喉咙有点堵。
“焦班尼,海獭皮上衣要来啦。”刚才的查内利又叫了起来。
“焦班尼,海獭皮上衣要来啦。”大家马上跟着叫了起来。
焦班尼满脸通红,连步子都不知道有没有迈开,一时间只想快快离开,却发现柯贝内拉也在其中。
柯贝内拉怜悯似地默默微笑。他看着焦班尼,好像在问:你不会生气吗?
焦班尼逃似地躲避着他的目光,在走过柯贝内拉那高高在上的身影时,大家各自都吹起了口哨。好不容易拐过街角,焦班尼回头一看,却发现扎内利也在回头看他。他看见柯贝内拉也吹着响亮的口哨,朝着隐约可见的桥走去。
焦班尼突然寂寞得说不出话来,不由地跑了起来。这时,一群用手捂着耳朵,一只脚蹦蹦跳跳的孩子们觉得焦班尼很滑稽有趣,哄然大笑。焦班尼飞快地跑着。
可是焦班尼并没有跑上山坡,就此回到那棵桧柏旁的家。他沿着北边的街道跑过去。河滩上有一条白茫茫的小河,上面架着一座细铁栏杆拉起来的桥。
他没有可以玩耍的地方。在大家眼里,他简直就像一只狐狸。
焦班尼站在桥上,喘着粗气,吹着口哨,掩饰着自己想哭的情绪。接着,他又跑了起来。
·
注:
①半人马座(ケンタウル):拉丁语Centaurus、古希腊语Κ??νταυρο??,是南天星座之一。14世纪郑和下西洋时,曾用它们来导航。
②《巡星之歌》:《巡星之歌》由宫泽贤治作词、作曲。在《双子星》《银河铁道之夜》中登场。
歌词如下:
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
リンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
翻译如下:
红目之蝎
鹫鹰展翅
蓝瞳之犬,
光蛇曲蜷。
猎户高歌。
露霜飘降,
仙女之云
鱼口之形。
大熊足北
五趾伸向。
小熊之额,
巡空缭绕。
·
第三稿(旧版)
四、ケンタウル祭
(そら、ぼくの影ぼふしは、だんだんみじかくなって、ぼくへ追ひついてくる。ぢきにすっかりちぢまっちまふぞ。)
ジョバンニは、口笛を吹いてゐるやうなさびしい口付きで、うしろをふりかへって、こんなことを考へながら、檜の真っ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。
坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立ってゐました。はんたうにジョバンニが、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、いままでばけもののやうに、長くぼんやり、うしろへ引いてゐらジョバンニの影ぼふしは、だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の法へまはって来るのでした。
(ぼくはまるで軽便鉄道の機関車だ。ここは勾配だからこんなに早い。ぼくはいまその電燈を通り越す。しゅっしゅっ。そら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。あんなにくるっとまはって、前の方へ来た。)
とジョバンニが思ひながら、大股にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなり一人の顔の赤い、新しいえりの尖ったシャツを着た小さな子が、電燈の向ふ側の暗い小路から出てきて、ひらっとジョバンニとすれちがひました。
「ザネリ、どこへ行ったの。」ジョバンニがまださう云ってしまはないうちに、
「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」その子が投げつけるやうにうしろから叫びました。
ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこら中きぃんと鳴るやうに思ひました。
なぜならジョバンニのお父さんは、そんならっこや海豹をとる、それも密猟船に乗ってゐて、それになにかひとを怪我させたために、遠くのさびしい海峡の町の監獄に入ってゐるといふのでした。ですから今夜だって、みんなが町の広場にあつまって、一緒に星めぐりの歌を歌ったり、川へ青い烏瓜のあかしを流したりする、たのしいケンタウル祭の伴なのに、ジョバンニはぼろぼろのふだん着のままで、病気のおっかさんの牛乳の配られて来ないのをとりに、下の町はづれまで行くのでした。
(ザネリは、どうしてもぼくがなんにもしないのに、あんなことを云ふののだらう。ぼくのお父さんは、悪くて監獄にはひってゐるのではない。わるいことなど、お父さんがする筈ないんだ。去年の夏、帰ってきたときだって、ちょっと見たときはびっくりしたけれども、ほんたうはここにわらって、それにあの荷物を解いたときならどうだ、鮭の皮でこさへた大きな靴だの、となかいの角だの、どんなにぼくは、よろこんではねあがって叫んだかしれない。ぼくは学校へ持って行ってみんなに見せた。先生までめづらしいといって見たんだ。いまだってちゃんと標本室にある。それにザネリやなんかあんまりだ。けれどもあんなことをいふのはばかだからだ。)
ジョバンニは、せはしくいろいろのことを考へながら、さまざまな灯や木の枝で、きれいに飾られた町を通って行きました。時計屋の店には明るくネン燈がついて、一秒ごとに石でこさへたふくろふの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、、眩ゆいプラチナや黄金の鎖だの、いろいろな宝石のはひった指環だのが、海のやうな色をした厚いガラスの盤に載ってゆっくり循ったり、また向ふ側から、銅のの人馬がゆっくりこっちへまはって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い正座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。
(あゝ、もしぼくがいまのやうに、朝暗いうちから二時間もしんぶんを折ってまはしにあるいたり、学校から帰ってからまで、活版処へ行って活字をひろったりしないでいいやうなら、学校でも前のやうにもっとおもしろくて、人馬だって球投げだって、誰にも負けないで、一生けん命やれたんだ。それがもういまは、誰も僕とあそばない。ぼくはたったひとりになってしまった。)
ジョバンニはきゅうくつな上着の肩を気にしながら、それでも胸を張って大きく手を振って、町を通って生きました。そのケンタウル祭の夜の町のきれいなことは、空気は澄み切って、まるで水のやうに通りや店の中を流れましたし、街燈はみなまっ青なもみや楢の枝で包まれ、電気会社の前の六本のプラタヌスの木などは、中に沢山の豆電燈がついて、ほんたうにそこらは人魚の都のやうに見えるのでした。子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、星めぐりの口笛を吹いたり
「ケンタウルス、露をふらせ。」と叫んで走ったり、青いマグネシヤの花火を燃やしたりして、たのしさうに遊んでゐるのでした。けれどもジョバンニは、いつかまた深く首を垂れて、そこらのにぎやかさとはまるでちがったことを考へながら、町はづれへ急ぐのでした。
(お母さんは、ほんたうにきのどくだ。毎日あんまり心配して、それでも無理に外へ出て、キャペヂのクサをとったり、燕麦を刈ったりはたらいたのだ。あの晩、おっかさんは、あんまり動悸がするからジョバンニ、起きてお湯をわかしてお呉れと云ってぼくをおこした。おっかさんが、ぼんやり辛さうに息をして、唇のいろまで変ってゐたんだ。ぼくはたったひとり、まるで馬鹿のやうに、火を吹きつけてお湯をわかした。手をあたためてあげたり、胸に湿布をしたり、頭を冷やしたり、いろいろしても、おっかさんはたゞだるさうに、もういゝよといふきりだった。ぼくはどんなに、つらかったかわからない。)
ジョバンニは、いつか待ちはづれのポプラの気が幾本も幾本も、高く星ぞらに浮かんでゐるところに来てゐました。その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子をぬいで「今晩は、」と云ひましたら、家の中はしぃんとして誰も居たやうではありませんでした。
「今晩は、ごめんなさい。」ジョバンニはまっすぐに立ってまた叫びました。するとしばらくたってから、年老った下女が、横の方からバケルをさげて出て来て云ひました。
「今晩だめですよ。誰も居ませんよ。」
「あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰ひにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命勢よく云ひました。
「ちゝ、今日はもうありませんよ。あしたにして下さい。」
下女は着物のふちで赤い眼の下のとこを擦りながら、しげしげジョバンニを見て云ひました。
「おっかさんが病気なんですがないんでせうか。」
「ありませんよ。お気の毒ですけれど。」下女はもう行ってしまひさうでした。
「さうですか、ではありがたう。」ジョバンニは、お辞儀をして台所から出ましたけれども、なぜか泪がいっぱいに湧きました。
(今日、銀貨が一枚さえあったら、どこからでもコンデンスミルクを買って帰るんだけれど。ああ、ぼくはどんなにお金がほしいのだらう。青い苹果だってもうできてゐるんだ。カムパネルラなんか、ほんたうにいいなあ。今日だって、銀貨を二枚も、運動場で弾いたりしてゐた。
ぼくはどうして、カムパネルラのやうに生れなかったらう。カムパネルラはえらい。せいだって高いし、いつだってわらってゐる。一年生のころは、あんまりできなかったけれども、いまはもう一番の級長で、誰だって追ひ付きやしない。算術だって、むづかしい歩合算でも、ちょっと頭を曲げればすぐできる。絵なんかあんなにうまい。水車を写生したのなどは、おとなだってあれくらゐできやしない。ぼくがカムパネルラと友だちだったら、どんなにいゝだらう。カムパネルラは、決してひとの悪口などを云はない。そして誰だって、カムパネルラをわるくおもってゐない。けれども、あゝ、おっかさんは、いまうちでぼくを待ってゐる。ぼくは早く帰って、牛乳はないけれども、おっかさんの額にキスをして、あの時計屋のふくらふの飾りのことをお話しよう。)
ジョバンニは、せはしくこんなことを考へながら、さっき来た町かどを、まがらうとしましたら、向ふの雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。その笑ひ声も口笛も、みんな聞きおぼえのあるものでした。ジョバンニの同級の子供らだったのです。ジョバンニは思はずどきっとして戻らうとしましたら、思ひ直して、一そう勢よくそっちへ歩いて行きました。
「川へ行くの。」ジョバンニは云はうとして、少しのどがつまったやうに思ったとき、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いてゐるかもわからず、急いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。カムパネルラは気の毒さうに、だまって少しわらって、怒らないだらうかといふやうにジョバンニの方を見てゐました。
ジョバンニは、遁げるやうにその眼を避け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過ぎて行って間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。町かどを曲るとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかへって見てゐました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて行ってしまったのでした。ジョバンニは、なんとも云へずさびしくなって、いきなり走り出しました。すると耳に手をあてて、わああと云ひながら片足でぴょんぴょん跳ねてゐた小さな子供らは、ジョバンニが面白くてかけるのだと思って、わあいと叫びました。どんどんジョバンニは走りました。
けれどもジョバンニは、まっすぐに坂をのぼって、あの檜の中のおっかさんの家へは帰らないで、ちゃうどその北の方の、町はづれへ走って行ったのです。そこには、河原のぼうっと白く見える、小さな川があって、細いテツの欄干のついた橋がかかってゐました。
(ぼくはどこへもあそびに行くところがない。ぼくはみんなから、まるで狐のやうに見えるんだ。)
ジョバンニは橋の上でとまって、ちょっとの間、せはしい息できれぎれに口笛を吹きながら泣き出したいのをごまかして立ってゐましたが、俄かにまたちからいっぱい走りだしました。
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第四稿(最终版)
四、ケンタウル祭の夜
ジョバンニは、口笛を吹いているようなさびしい口付きで、檜のまっ黒にならんだ町の坂を下りて来たのでした。
坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。ジョバンニが、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影ぼうしは、だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。
(ぼくは立派な機関車だ。ここは勾配だから速いぞ。ぼくはいまその電燈を通り越す。そうら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。あんなにくるっとまわって、前の方へ来た。)
とジョバンニが思いながら、大股にその街燈の下を通り過ぎたとき、いきなりひるまのザネリが、新らしいえりの尖ったシャツを着て電燈の向う側の暗い小路から出て来て、ひらっとジョバンニとすれちがいました。
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの。」ジョバンニがまだそう云ってしまわないうちに、
「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」その子が投げつけるようにうしろから叫びました。
ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこら中きぃんと鳴るように思いました。
「何だい。ザネリ。」とジョバンニは高く叫び返しましたがもうザネリは向うのひばの植った家の中へはいっていました。
「ザネリはどうしてぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのだろう。走るときはまるで鼠のようなくせに。ぼくがなんにもしないのにあんなことを云うのはザネリがばかだからだ。」
ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯や木の枝で、すっかりきれいに飾られた街を通って行きました。時計屋の店には明るくネン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子の盤に載って星のようにゆっくり循ったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。
ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。
それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですがその日と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形のなかにめぐってあらわれるようになって居りやはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になってその下の方ではかすかに爆発して湯気でもあげているように見えるのでした。またそのうしろには三本の脚のついた小さな望遠鏡が黄いろに光って立っていましたしいちばんうしろの壁には空じゅうの星座をふしぎな獣や蛇や魚や瓶の形に書いた大きな図がかかっていました。ほんとうにこんなような蝎だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たいと思ってたりしてしばらくぼんやり立って居ました。
それから俄かにお母さんの牛乳のことを思いだしてジョバンニはその店をはなれました。そしてきゅうくつな上着の肩を気にしながらそれでもわざと胸を張って大きく手を振って町を通って行きました。
空気は澄みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街燈はみなまっ青なもみや楢の枝で包まれ、電気会社の前の六本のプラタヌスの木などは、中に沢山の豆電燈がついて、ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、星めぐりの口笛を吹いたり、
「ケンタウルス、露をふらせ。」と叫んで走ったり、青いマグネシヤの花火を燃したりして、たのしそうに遊んでいるのでした。けれどもジョバンニは、いつかまた深く首を垂れて、そこらのにぎやかさとはまるでちがったことを考えながら、牛乳屋の方へ急ぐのでした。
ジョバンニは、いつか町はずれのポプラの木が幾本も幾本も、高く星ぞらに浮んでいるところに来ていました。その牛乳屋の黒い門を入り、牛の匂のするうすくらい台所の前に立って、ジョバンニは帽子をぬいで「今晩は、」と云いましたら、家の中はしぃんとして誰も居たようではありませんでした。
「今晩は、ごめんなさい。」ジョバンニはまっすぐに立ってまた叫びました。するとしばらくたってから、年老った女の人が、どこか工合が悪いようにそろそろと出て来て何か用かと口の中で云いました。
「あの、今日、牛乳が僕んとこへ来なかったので、貰いにあがったんです。」ジョバンニが一生けん命勢よく云いました。
「いま誰もいないでわかりません。あしたにして下さい。」
その人は、赤い眼の下のとこを擦りながら、ジョバンニを見おろして云いました。
「おっかさんが病気なんですから今晩でないと困るんです。」
「ではもう少したってから来てください。」その人はもう行ってしまいそうでした。
「そうですか。ではありがとう。」ジョバンニは、お辞儀をして台所から出ました。
十字になった町のかどを、まがろうとしましたら、向うの橋へ行く方の雑貨店の前で、黒い影やぼんやり白いシャツが入り乱れて、六七人の生徒らが、口笛を吹いたり笑ったりして、めいめい烏瓜の燈火を持ってやって来るのを見ました。その笑い声も口笛も、みんな聞きおぼえのあるものでした。ジョバンニの同級の子供らだったのです。ジョバンニは思わずどきっとして戻ろうとしましたが、思い直して、一そう勢よくそっちへ歩いて行きました。
「川へ行くの。」ジョバンニが云おうとして、少しのどがつまったように思ったとき、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いているかもわからず、急いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。カムパネルラは気の毒そうに、だまって少しわらって、怒らないだろうかというようにジョバンニの方を見ていました。
ジョバンニは、遁げるようにその眼を避け、そしてカムパネルラのせいの高いかたちが過ぎて行って間もなく、みんなはてんでに口笛を吹きました。町かどを曲るとき、ふりかえって見ましたら、ザネリがやはりふりかえって見ていました。そしてカムパネルラもまた、高く口笛を吹いて向うにぼんやり見える橋の方へ歩いて行ってしまったのでした。ジョバンニは、なんとも云えずさびしくなって、いきなり走り出しました。すると耳に手をあてて、わああと云いながら片足でぴょんぴょん跳んでいた小さな子供らは、ジョバンニが面白くてかけるのだと思ってわあいと叫びました。まもなくジョバンニは黒い丘の方へ急ぎました。