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6、六 她的英语口 ...

  •   当时,我是那样地讨好她,让她做一切自己喜欢的事,同时又充分地教育她,把她培养成一个优秀的女人、一个伟大的女人——我从未放弃过最初的希望。
      若要细细品味诸如“优秀”、“伟大”这些词的含义,我自己也不是很清楚。总而言之,我的想法极其单纯,脑海里大概是“去哪都不会感到羞耻的现代时髦女性”这种非常模糊的东西吧。
      “让娜奥米变得伟大”和“像人偶一样珍惜她”,为什么这两件事不能兼顾呢?——现在回想起来,这是多么愚蠢的想法啊,我被她的爱所溺惑,目眩神迷,就连这种简单的道理也完全不懂。

      “娜奥米酱,玩归玩,学习归学习。如果你能变得伟大,我还会给你买更多的东西。”我的口头禅似的念叨。

      “嗯,我会努力学习,然后一定会变得了不起。”
      每当我这么说,娜奥米一定会这么回答。

      每天的晚饭过后,我都会用三十分钟左右的时间,陪她梳理会话或阅读。
      可是在这种情况下,她却穿着那件天鹅绒睡裙,靠在椅子上,用脚尖把拖鞋当玩具踢。不管我怎么唠叨,结果她还是把“玩耍”和“学习”混为一谈了。

      “娜奥米酱,你怎么这个样子!学习的时候要更有礼貌才行啊!”

      我这么一说,娜奥米马上缩起了肩膀,像小学生一样撒娇道:“老师,对不起啦。”有时又说,“河合老师,请原谅。”
      她道歉的时候会偷看我的面孔,有时还会把脸颊凑过来。

      “河合老师”对可爱的学生没有任何严格起来的勇气,斥责到最后就变成了无聊的恶作剧。

      娜奥米在音乐方面的进展我不太知道,但她已经十五岁了,在哈里森女士的指导下学习了两年左右的英语,按理说应该十分优秀。阅读也从第一册学到了现在的两册半多,学习会话用的教科书是《English Echo》,语法书使用了神田乃武的《Intermediate Grammar》,基本上相当于初中三年级的水平。
      但不管怎么偏袒,我都觉得娜奥米恐怕连二年级生都不如。多么不可思议。我认为这是不该发生的事情。

      于是我去拜访哈里森女士。

      “不,不是那样的,那孩子很聪明,学得很好。”那个胖胖的、慈祥的老女士只是笑眯眯地说着。

      “是的,那是个聪明的孩子,所以我觉得她的英语不该比预想中的还差。她只会读,但在日语的翻译、语法解释等方面……”

      “不,那是你错了,你的想法不对。”老女士依旧是笑眯眯的面孔,打断了我的话,“日本人学英语时都在考虑语法和翻译,但这是最糟糕的。你在学习英语的时候,绝对不能在脑子里想语法,更别翻译。用英语一遍又一遍地读,这是一等一的好方法。娜奥米的发音很美。而且她的阅读能力很强,以后一定会变得很好。”

      哈里森女士说的话也有道理。但是我的意思也不是说要系统地背诵语法。
      学了两年英语学到阅读三,至少要有些心得,能理解过去分词的用法、被动语态的构造、主动语态的应用。可是让她把日文英译的时候,却完全无法做到,简直连中学的差生都不如。就算阅读能力再好,也没有真实的实力。所以这两年到底教了什么,学了什么,我真搞不懂。
      但是,哈里森女士并没有在意我不满的神情,而是用一种过度放心的态度优雅地点头,嘴上不停地重复着“那孩子非常聪明”。

      我想,西洋教师对日本学生似乎有一种偏爱。偏爱——这么说不太好,应该叫先入为主吧?也就是说,他们一看到西洋味的、时髦的、可爱的少女或少年,一个两个都会觉得这种孩子很伶俐。
      尤其是Miss old倾向更甚。哈里森女士频频褒扬娜奥米也就是因为这个原因,她的脑袋一开始就认定娜奥米是个“聪明的孩子”。
      而且,正如哈里森女士所说,娜奥米的发音非常流畅。不管怎么说,她的齿列很整齐,再加上她的声乐素养,光听声音就觉得非常悦耳,英语口语让我望尘莫及。
      所以,哈里森女士一定是被这声音欺骗了,疏忽大意地陷入误区。让我吃惊的是,我去了女士的房间一看,梳妆台上的镜子的周围赫然挂着很多娜奥米的照片,这一点也着实让我明白了。

      我在内心对哈里森女士的意见和教学方法甚是不满,但同时又对西洋人如此偏爱娜奥米,直说她是聪明的孩子而情不自禁地感到一种宛如自己被夸奖的喜悦。这正中我下怀。
      不仅如此,本来我——不,不只是我,不论哪个日本人大概都是这样——一到西洋人面前,就颇没骨气,没有勇气明确地述说出自己的看法。
      哈里森女士用带着奇怪口音的日语,理直气壮地滔滔不绝,到最后我连该说的话全都没说。什么嘛,既然对方提出的是这样的意见,那我就按我的方法做,不足之处在家里由自己来弥补。我心中暗暗决定。

      “嗯,的确如此,就如您所说。这样我也明白了,可以安心了。”
      我说着,脸上浮现出暧昧而奉承的笑容,就这样不得要领地怏怏而回。

      “让治先生,哈里森女士说了什么?”那天晚上娜奥米问我。
      她的语气听上去就像被老女士恃宠生娇,完全没把我放在眼里。

      “虽然说了你学得很好,但西洋人根本不了解日本学生的心理。她只要发音灵活,读得流畅就行,这其实是大错特错的。你的记忆力确实很好,所以很擅长背诵,但如果让你翻译的话,却什么意思都不明白。你只是鹦鹉学舌罢了。学再多也没用!”那是我第一次对娜奥米说近似斥责的话。

      她把哈里森女士当作自己人,得意的抽了抽鼻子,仿佛在说:“你看到了吗?”
      这不仅让我生气,而且让我感到非常不安,因为我不知道这样做能不能让她成为“伟大的女人”。

      英语的问题姑且不论,如果一个人的大脑无法理解语法的规则,那她的未来就足以令人担忧了。
      男孩子在中学学习几何和代数是为了什么呢,不一定是以实用为主要目的,最重要的是为了使头脑的运转更加缜密,目的不就是炼磨吗!不过女孩子嘛,现在没有分析能力也不要紧。但是,今后的女性不会这样。
      更何况,想要成为“不亚于西洋人的”、“优秀的”女人,不能没有组织才能或分析能力。而事实着实令人心虚。

      我多少有些固执,以前只复习梳理三十分钟左右,后来加长到一小时或一个半小时以上,每天必授日文英译和语法。而且在这段时间里,我绝不允许她有半点玩乐的心情,稍有不虞便狠狠地训斥。
      娜奥米最欠缺的地方便是理解力,所以我故意巧合地不讲细节,只是给她一点提示,然后引导她自己去发现。

      例如刚学完语法中的“被动语态”,我就马上把它应用到问题——
      “你把这个翻译成英语看看。”我这么说,“只要你学通了刚才的内容,你就不可能不会。”

      说完之后我一直保持沉默,耐心地等着她说出答案。即使答案千奇百怪,我也绝不说哪里错了。
      “你倒是说些什么啊,是不是还不明白?你把语法重读一遍再看。”

      有时不知重做多少次还是不会:“娜奥米酱,这么简单的东西都做不出来,你到底几岁了?……一遍又一遍地纠正同一个地方,还弄不明白,脑子去哪里了?哈里森女士说你很伶俐,可我一点也不这么认为。连这个都不会,去学校就是差生啊!”

      我说起话来总是不知不觉地过于激动,声音也越来越大。
      娜奥米经常一下子就涨红了脸,抽抽搭搭地哭了起来。

      平时关系是真的好的两人,从来没有发生过争执,她一笑,我也笑,我想世间从来没有这样和睦的男女关系——可是一到英语时间,彼此之间就一定会产生一种沉闷的、令人窒息的氛围。每日一度地,我不得不发怒,她也非涨红脸不可。经常是刚才心情蛮好的两人,突然都绷着脸,用几乎可以算是充满敌意的眼神瞪着对方。
      实际上到了那个时候,我已经忘记了最初的动机是为了让她变得“伟大”,只是肺腑焦躁,打从心底里憎恨起她来。
      如果对方是男孩,我一定会一怒之下殴打她。即使没有这么过分,我也会不由自己地陷入激动的情绪,大声呵斥她“笨蛋”。有一次我甚至用拳头砸了一下她的额头。
      然而这样一来,娜奥米就会莫名其妙地变得乖僻起来——即使是知道的题目,她也绝对不回答,只是任由泪水滚落脸颊,永远保持着石头般的沉默。娜奥米一旦像这样走了弯路,性格就会惊人地固执,进而一发难以收拾,最后只得我来认输,不了了之。

      有一次发生了一件这样的事。大家都知道,“doing”、“going”等现在分词的前面一定要有系动词“有”——也就是“to be”,但是她无论说多少次都不能理解,常常犯“I going”、“He making”这样的错误。
      我气得连骂了好几次“笨蛋”,说得嘴巴都酸了,令人惊讶的是,过去式、将来时、将来完成时、过去完成时等各种时态“going”的变化,她还是不明白。依然故我地拼写“He will going”,或者写“I had going”。

      我不由得动怒:“笨蛋!你是什么品种的笨蛋!‘will going’、‘have going’之类的话绝对不能说,我说了那么多遍,你还不明白吗?不懂就做到懂为止。即使今晚做一整夜,我也不会原谅你了。”

      然后我狠狠地敲着铅笔,把笔记本推到娜奥米面前。娜奥米紧闭双唇,脸色铁青,抬眼看着我,锐利地瞪睨着我的眉眼。
      不知道她是怎么想的,她猛地一把抓住笔记本,撕拉一声撕成碎片,全部扔到地板上。再用可怖的目光直勾勾地盯着我看,像是要把我的脸盯出一个洞。

      “你想干什么!”
      一瞬间,我被那种、那种猛兽般的气势所压倒。过了一会儿才站起来怒吼。
      “你想反抗我吗?你觉得学得怎么样都无所谓吗?你说过会努力学习,会做个伟大的女人,现在又到底是怎么一回事?撕笔记本是什么意思?快点,道歉,不道歉的话我不会放过你!限你今天离开家里!”

      可是娜奥米依旧固执地不肯吭声,她那张铁青的脸浮现出似哭非笑的神情。

      “好!你不道歉也行,现在马上离开这里!我说了,快点出去!”
      我想,不给她见见真招的话,是无法吓唬到她的。我一下子站起来,手快地把她之前脱下扔一旁的两三件换洗衣服揉成一团包起来,再从二楼房间的钱包里拿出两张十元钞票,递给她。
      “好了,娜奥米酱,这个包袱里放着你的贴身物品,今晚带着它回浅草吧。这里有二十日元,虽然不多,但你可以把它当做你短期的零用钱。过段时间再跟你说清楚,行李明天送过去。——嗯?娜奥米酱,你怎么了,不要沉默……”

      听我这么一说,她虽然不服气,但毕竟还是个孩子。面对我这剑拔弩张的气势,娜奥米显得有些胆怯,事到如今她后悔似地垂下脑袋,什么话也不敢说。

      “虽然你很固执,但一旦提出这样的要求,我是绝对不会就此罢休的。如果觉得不好,就向我道歉,如果不愿意道歉,就回去吧……快点,选哪一个,早点决定不好吗?道歉?还是回浅草?”

      然后她“不要、不要”地摇头。

      “那你是不想回去吗?”

      就像说“嗯”一样,她这次用点头的方式告诉我。

      “你是想道歉?”

      “嗯。”她像刚才一样地又点了点头。

      “那我就原谅你了。你就给我规规矩矩地磕头,向我道歉吧。”

      于是,没办法,娜奥米迫不得已将两手撑在桌子上——尽管如此,她还是一副把人当笨蛋的样子,侧着脑袋不精不诚地向我的俯首行礼。

      这种傲慢、任性的性格,是以前就存在于她身上的,还是我过于溺爱的结果呢?不管怎样,随着时间的推移加剧了这种性格。
      不,实际上,我并不是为了加剧而才来的,十五六岁的时候,我把它当作孩子气的可爱之处而忽略了,也许是长大了的她依旧不温顺,所以渐渐地,我也无能为力了。
      以前,不管她怎样撒娇,只要我斥责几句,她都会老老实实地服从,但现在只要一有不顺心的事就牢骚满腹。即便如此,如果她抽抽搭搭地哭起来,那还算可爱,但有时无论我怎样严厉地训斥她,她也不会掉一滴眼泪,可恨地装起糊涂来,用那双锐利的眼睛上视,像狙击一般一条直线地盯着我看——我总觉得,如果真的有动物电这种东西,娜奥米的眼睛里一定含有大量的电流。
      要问为什么,因为她的眼睛不像女人的眼睛,炯炯有神,烈到可怕,再加上它还散发着一种深不可测的魅力。所以每当我被它的气息扫荡,就会不寒而栗。

      ·

      当時私は、それほど彼女の機嫌を買い、ありとあらゆる好きな事をさせながら、一方では又、彼女を十分に教育してやり、偉い女、立派な女に仕立てようと云う最初の希望を捨てたことはありませんでした。この「立派」とか「偉い」とか云う言葉の意味を吟味すると、自分でもハッキリしないのですが、要するに私らしい極く単純な考で、「何処へ出しても耻かしくない、近代的な、ハイカラ婦人」と云うような、甚だ漠然としたものを頭に置いていたのでしょう。ナミを「偉くすること」と、「人形のように珍重すること」と、この二つが果して両立するものかどうか?―――今から思うと馬鹿げた話ですけれど、彼女の愛に惑溺して眼が眩んでいた私には、そんな見易い道理さえが全く分らなかったのです。
      「ナミちゃん、遊びは遊び、勉強は勉強だよ。お前が偉くなってくれればまだまだ僕はいろいろな物を買って上げるよ」

      と、私は口癖のように云いました。

      「ええ、勉強するわ、そうしてきっと偉くなるわ」

      と、ナミは私に云われればいつも必ずそう答えます。そして毎日晩飯の後で、三十分くらい、私は彼女に会話やリーダーを浚ってやります。が、そんな場合に彼女は例のビロードの服だのガウンだのを着て、足の突先でスリッパをおもちゃにしながら椅子に靠れる始末ですから、いくら口でやかましく云っても、結局「遊び」と「勉強」とはごっちゃになってしまうのでした。

      「ナミちゃん、何だねそんな真似をして! 勉強する時はもっと行儀よくしなけりゃいけないよ」

      私がそう云うと、ナミはぴくッと肩をちぢめて、小学校の生徒のような甘っ垂れた声を出して、

      「先生、御免なさい」

      と云ったり、

      「河合チェンチェイ、堪忍して頂戴な」

      と云って、私の顔をコッソリ覗き込むかと思うと、時にはちょいと頬っぺたを突ッついたりする。「河合先生」もこの可愛らしい生徒に対しては厳格にする勇気がなく、叱言の果てがたわいのない悪ふざけになってしまいます。

      一体ナミは、音楽の方はよく知りませんが、英語の方は十五の歳からもう二年ばかり、ハリソン嬢の教を受けていたのですから、本来ならば十分出来ていい筈なので、リーダーも一から始めて今では二の半分以上まで進み、会話の教科書としては“English Echo”を習い、文典の本は神田乃武の“Intermediate Grammar”を使っていて、先ず中学の三年ぐらいな実力に相当する訳でした。けれどもいくら贔屓眼に見ても、ナミは恐らく二年生にも劣っているように思えました。どうも不思議だ、こんな筈はないのだがと思って、一度私はハリソン嬢を訪ねたことがありましたが、

      「いいえ、そんなことはありません、あの児はなかなか賢い児です。よく出来ます」

      と、そう云って、太った、人の好さそうなその老嬢は、ニコニコ笑っているだけでした。

      「そうです、あの児は賢い児です、しかしその割りに余り英語がよく出来ないと思います。読むことだけは読みますけれど、日本語に飜訳することや、文法を解釈することなどが、………」

      「いや、それはあなたがいけません、あなたの考が違っています」

      と、矢張老嬢はニコニコ顔で、私の言葉を遮って云うのでした。

      「日本の人、みな文法やトランスレーションを考えます。けれどもそれは一番悪い。あなた英語を習います時、決して決して頭の中で文法を考えてはいけません、トランスレートしてはいけません。英語のままで何度も何度も読んで見ること、それが一等よろしいです。ナミさんは大変発音が美しい。そしてリーディングが上手ですから、今にきっと巧くなります」

      成るほど老嬢の云うところにも理窟はあります。が、私の意味は文典の法則を組織的に覚えろと云うのではありません。二年間も英語を習い、リーダーの三が読めるのですから、せめて過去分詞の使い方や、パッシヴ·ヴォイスの組み立てや、サブジャンクティヴ·ムードの応用法ぐらいは、実際的に心得ていい筈だのに、和文英訳をやらせて見ると、それがまるきり成っていないのです。殆ど中学の劣等生にも及ばないくらいなのです。いくらリーディングが達者だからと云って、これでは到底実力が養成される道理がない。一体二年間も何を教え、何を習っていたのだか訳が分らない。しかし老嬢は不平そうな私の顔つきに頓着せず、ひどく安心しきったような鷹揚な態度で頷きながら、「あの児は大へん賢いです」を相変らず繰り返すばかりでした。

      これは私の想像ではありますが、どうも西洋人の教師は日本人の生徒に対して一種のえこひいきがあるようです。えこひいき——そう云って悪ければ先入主とでも云いましょうか? つまり彼等は西洋人臭い、ハイカラな、可愛らしい顔だちの少年や少女を見ると、一も二もなくその児を悧巧だと云う風に感ずる。殊にオールド·ミスであるとその傾向が一層甚しい。ハリソン嬢がナミを頻りに褒めちぎるのはそのせいなので、もう頭から「賢い児だ」ときめてしまっているのでした。おまけにナミは、ハリソン嬢の云う通り発音だけは非常に流暢を極めていました。何しろ歯並びがいいところへ声楽の素養があったのですから、その声だけを聞いていると実に綺麗で、素晴らしく英語が出来そうで、私などはまるで足元へも寄りつけないように思いました。それで恐らくハリソン嬢はその声に欺かされて、コロリと参ってしまったに違いないのです。嬢がどれほどナミを愛していたかと云うことは、驚いたことに、嬢の部屋へ通って見ると、その化粧台の鏡の周りにナミの写真が沢山飾ってあったのでも分るのでした。

      私は内心嬢の意見や教授法に対しては甚だ不満でしたけれども、同時に又、西洋人がナミをそんなにひいきにしてくれる、賢い児だと云ってくれるのが、自分の思う壺なので、あたかも自分が褒められたような嬉しさを禁じ得ませんでした。のみならず、元来私は、——いや、私ばかりではありません、日本人は誰でも大概そうですが、——西洋人の前へ出ると頗る意気地がなくなって、ハッキリ自分の考を述べる勇気がない方でしたから、嬢の奇妙なアクセントのある日本語で、しかも堂々とまくし立てられると、結局此方の云うべきことも云わないでしまいました。なに、向うがそう云う意見なら、此方は此方で、足りないところを家庭で補ってやればいいのだと、腹の中でそう極めながら、

      「ええ、ほんとうにそれはそうです、あなたの仰っしゃる通りです。それで私も分りましたから安心しました」

      とか何とか云って、曖昧な、ニヤニヤしたお世辞笑いを浮かべながら、そのまま不得要領でスゴスゴ帰って来たのでした。

      「譲治さん、ハリソンさんは何と云った?——」

      と、ナミはその晩尋ねましたが、彼女の口調はいかにも老嬢の寵を恃んで、すっかりたかを括っているように聞えました。

      「よく出来るって云っていたけれど、西洋人には日本人の生徒の心理が分らないんだよ。発音が器用で、ただすらすら読めさえすりゃあいいと云うのは大間違いだ。お前はたしかに記憶力はいい、だから空で覚える事は上手だけれど、飜訳させると何一つとして意味が分っていないじゃないか。それじゃ鸚鵡と同じことだ。いくら習っても何の足しにもなりゃしないんだ」

      私がナミに叱言らしい叱言を云ったのはその時が始めてでした。私は彼女がハリソン嬢を味方にして、「それ見たことか」と云うように、得意の鼻を蠢めかしているのが癪に触ったばかりでなく、第一こんなで「偉い女」になれるかどうか、それを非常に心もとなく感じたのです。英語と云うものを別問題にして考えても、文典の規則を理解することが出来ないような頭では、全くこの先が案じられる。男の児が中学で幾何や代数を習うのは何の為めか、必ずしも実用に供するのが主眼でなく、頭脳の働きを緻密にし、練磨するのが目的ではないか。女の児だって、成るほど今までは解剖的の頭がなくても済んでいた。が、これからの婦人はそうは行かない。まして「西洋人にも劣らないような」「立派な」女になろうとするものが、組織の才がなく、分析の能力がないと云うのでは心細い。

      私は多少依怙地にもなって、前にはほんの三十分ほど浚ってやるだけだったのですが、それから後は一時間か一時間半以上、毎日必ず和文英訳と文典とを授けることにしたのでした。そしてその間は断じて遊び半分の気分を許さず、ぴしぴし叱り飛ばしました。ナミの最も欠けているところは理解力でしたから、私はわざと意地悪く、細かいことを教えないでちょっとしたヒントを与えてやり、あとは自分で発明するように導きました。たとえば文法のパッシヴ·ヴォイスを習ったとすると、早速それの応用問題を彼女に示して、

      「さ、これを英語に訳して御覧」

      と、そう云います。

      「今読んだところが分ってさえいりゃ、これがお前に出来ない筈はないんだよ」

      と、そう云ったきり、彼女が答案を作るまでは黙って気長に構えています。その答案が違っていても決して何処が悪いとも云わないで、

      「何だいお前、これじゃ分っていないんじゃないか、もう一度文法を読み直して御覧」

      と、何遍でも突っ返します。そしてそれでも出来ないとなると、

      「ナミちゃん、こんな易しいものが出来ないでどうするんだい。お前は一体幾つになるんだ。………幾度も幾度も同じ所を直されて、まだこんな事が分らないなんて、何処に頭を持っているんだ。ハリソンさんが悧巧だなんて云ったって、僕はちっともそうは思わないよ。これが出来ないじゃ学校に行けば劣等生だよ」

      と、私もついつい熱中し過ぎて大きな声を出すようになります。するとナミはむッと面を膨らせて、しまいにはしくしく泣きだすことがよくありました。

      ふだんはほんとうに仲のいい二人、彼女が笑えば私も笑って、嘗て一度もいさかいをしたことがなく、こんな睦ましい男女はないと思われる二人、——それが英語の時間になるときまってお互に重苦しい、息の詰まるような気持にさせられる。日に一度ずつ私が怒らないことはなく、彼女が膨れないことはなく、ついさっきまであんなに機嫌のよかったものが、急に双方ともシャチコ張って、殆ど敵意をさえ含んだ眼つきで睨めッくらをする。——実際私はその時になると、彼女を偉くするためと云う最初の動機は忘れてしまって、あまりの腑がいなさにジリジリして、心から彼女が憎らしくなって来るのでした。相手が男の児だったら、私はきっと腹立ち紛れにポカリと一つ喰わせたかも知れません。それでなくとも夢中になって「馬鹿ッ」と怒鳴りつけることは始終でした。一度は彼女の額のあたりをこつんと拳骨で小突いたことさえありました。が、そうされるとナミの方も妙にひねくれて、たとい知っている事でも決して答えようとはせず、頬を流れる涙を呑みながらいつまでも石のような沈黙を押し通します。ナミは一旦そう云う風に曲り出したら驚くほど強情で、始末に負えないたちでしたから、最後は私が根負けをして、うやむやになってしまうのでした。

      或るときこんな事がありました。“doing”とか“going”とか云う現在分詞には必ずその前に「ある」と云う動詞、——“to be”を附けなければいけないのに、それが彼女には何度教えても理解出来ない。そして未だに“I going”“He making”と云うような誤りをするので、私は散々腹を立てて例の「馬鹿」を連発しながら口が酸っぱくなる程細かく説明してやった揚句、過去、未来、未来完了、過去完了といろいろなテンスに亙って“going”の変化をやらせて見ると、呆れた事にはそれがやっぱり分っていない。依然として“He will going”とやったり、“I had going”と書いたりする。私は覚えずかッとなって、

      「馬鹿!お前は何という馬鹿なんだ!“will going”だの“have going”だのッてことは決して云えないッて人があれほど云ったのがまだお前には分らないか。分らなけりゃ分るまでやって見ろ。今夜一と晩中かかっても出来るまでは許さないから」

      そして激しく鉛筆を叩きつけて、その帳面をナミの前へ突き返すと、ナミは固く唇を結んで、真っ青になって、上眼づかいに、じーッと鋭く私の眉間を睨めつけました。と、何と思ったか彼女はいきなり帳面を鷲掴みにして、ピリピリに引き裂いて、ぽんと床の上へ投げ出したきり、再び物凄い瞳を据えて私の顔を穴のあくほど睨めるのです。

      「何するんだ!」

      一瞬間、その、猛獣のような気勢に圧されてアッケに取られていた私は、暫く立ってからそう云いました。

      「お前は僕に反抗する気か。学問なんかどうでもいいと思っているのか。一生懸命に勉強するの、偉い女になるのと云ったのは、ありゃ一体どうしたんだ。どう云う積りで帳面を破ったんだ。さ、詫まれ、詫まらなけりゃ承知しないぞ! もう今日限りこの家を出て行ってくれ!」

      しかしナミは、まだ強情に押し黙ったまま、その真っ青な顔の口もとに、一種泣くような薄笑いを浮べているだけでした。

      「よし! 詫まらなけりゃそれでいいから、今直ぐ此処を出て行ってくれ! さ、出て行けと云ったら!」

      そのくらいにして見せないととても彼女を威嚇かすことは出来まいと思ったので、ついと私は立ち上って脱ぎ捨ててある彼女の着換えを二三枚、手早く円めて風呂敷に包み、二階の部屋から紙入れを持って来て十円札を二枚取り出し、それを彼女に突きつけながら云いました。

      「さあ、ナミちゃん、この風呂敷に身の周りの物は入れてあるから、これを持って今夜浅草へ帰っておくれ。就いては此処に二十円ある。少いけれど当座の小遣いに取ってお置き。いずれ後からキッパリと話はつけるし、荷物は明日にでも送り届けて上げるから。——え? ナミちゃん、どうしたんだよ、なぜ黙っているんだよ。………」

      そう云われると、きかぬ気のようでもそこはさすがに子供でした。容易ならない私の剣幕にナミはいささか怯んだ形で、今更後悔したように殊勝らしく項を垂れ、小さくなってしまうのでした。

      「お前もなかなか強情だけど、僕にしたって一旦こうと云い出したら、決してそのままにゃ済まさないよ。悪いと思ったら詫まるがよし、それが厭なら帰っておくれ。………さ、孰方にするんだよ、早く極めたらいいじゃないか。詫まるのかい? それとも浅草へ帰るのかい?」

      すると彼女は首を振って「いやいや」をします。

      「じゃ、帰りたくないのかい?」

      「うん」と云うように、今度は頤で頷いて見せます。

      「じゃ、詫まると云うのかい?」

      「うん」

      と、又同じように頷きます。

      「それなら堪忍して上げるから、ちゃんと手を衝いて詫まるがいい」

      で、仕方がなしにナミは机へ両手を衝いて、——それでもまだ何処か人を馬鹿にしたような風つきをしながら、不精ッたらしく、横ッちょを向いてお辞儀をします。

      こういう傲慢な、我が儘な根性は、前から彼女にあったのであるか、或は私が甘やかし過ぎた結果なのか、いずれにしても日を経るに従ってそれがだんだん昂じて来つつあることは明かでした。いや、実は昂じて来たのではなく、十五六の時分にはそれを子供らしい愛嬌として見逃していたのが、大きくなっても止まないので次第に私の手に余るようになったのかも知れません。以前はどんなにだだを捏ねても叱言を云えば素直に聴いたものですが、もうこの頃では少し気に喰わないことがあると、直ぐにむうッと膨れ返る。それでもしくしく泣いたりされればまだ可愛げがありますけれど、時には私がいかに厳しく叱りつけても涙一滴こぼさないで、小憎らしいほど空惚けたり、例の鋭い上眼を使って、まるで狙いをつけるように一直線に私を見据える。―――もし実際に動物電気と云うものがあるなら、ナミの眼にはきっと多量にそれが含まれているのだろうと、私はいつもそう感じました。なぜならその眼は女のものとは思われない程、烱々として強く凄じく、おまけに一種底の知れない深い魅力を湛えているので、グッと一と息に睨められると、折々ぞっとするようなことがあったからです。

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