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11、十一 仅在一夜之 ...

  •   “来吧,让治先生,one step,我们一起跳吧。”

      如娜奥米所说,我终于得到了与她跳舞的光荣。

      对我来说,这虽然有些不好意思,但也是个对平时的练习进行实际测试的机会。更特别的是,我的舞伴是可爱的娜奥米,我绝对不会感到不高兴——纵使我的舞技差劲到成为笑柄的地步,这种差劲反而会衬托出娜奥米的魅力。不如说这才是我的本意。
      另外,我还有一种奇妙的虚荣心。这么说来,我不过是想让别人评价:“他看起来是那个女人的夫主。”换句话说,“这个女人是我的。怎么样,来看看我的宝物吧。”这是一件非常值得骄傲的事情。
      一想到这里,我就浑身舒畅,同时也感到无比的痛快,觉得自己为她所付出的牺牲和辛劳,都得到了回报。

      可看她刚才的样子,今晚或许不想和我跳舞。至少在自己变得更灵巧之前,她大概是不愿意吧。
      不愿意就不愿意吧,我反正也从来没有说过想和她跳舞。就在我已经快要放弃的时候,她却来了一句“我们一起跳舞吧”——这一句话不知让我多么的高兴。

      我兴奋得像是得了热病,至今我还记得牵着娜奥米的手踏出one step的那一刻。之后的一切都让我如浸梦中。越是沉迷其中,就越听不见音乐,脚步也变得乱七八糟起来,目光闪烁,心跳加速。
      在舞厅里跳和在吉村乐器店的二楼放留声机唱片时完全不同,像是在茫茫人海中划船,是退是进,让我完全摸不着头脑。

      “让治先生,你在发什么抖啊,不能稳一点吗?”
      娜奥米凑了过来,一直在我耳边斥责。
      “看,你看,又滑了!转得太急了!再轻点!轻点!”

      可是,被她这么一说,我更加晕头转向。再加上今晚有舞会,地板拖得特别光滑,所以在这个稽古场上只要一不留神,立刻就会滑倒。

      “就是这样!不要抬起肩膀!把肩膀再垂下去一点!垂下去!”
      娜奥米说着,时不时地挥开我死命握着的手,狠狠地摁下我的肩膀。

      “你握着我的手有什么用啊!简直要贴在我身上一样,跳得太憋屈了,没有办法啊……看,看,又是肩膀!”
      我甚至听不进她那喋喋不休的话语,完全是为了被她骂而跳舞,什么事情也做不成。

      “我不跳了!让治先生。”
      没过多久,娜奥米就生气了,明明大家还热情地叫着“安可”,可她却把我抛在一边,自己跑回了座位。
      “啊,太让我惊讶了,我完全无法跟你一起跳舞。让治先生你在里面多练习一下吧。”

      浜田和绮罗子回来了,熊谷回来了,菊子也来了,桌子周围再次热闹起来,我却完全沉浸在幻灭的悲哀中,只能默默地成为娜奥米嘲弄的对象。

      “啊哈哈哈哈,像你这样说的话,弱气的人更不会跳舞了。别这么说,接着跳舞吧。”
      熊谷的话又让我生气了。“接着跳舞吧”,这是什么意思?他把我当成了什么?你这个乳臭未干的小子!

      “哪里,没有娜奥米君说得那么差劲,更差劲的不是还有很多人吗?”滨田说,“怎么样,绮罗子女士,这次的fox trot(狐步舞曲),你和河合先生一起跳?”

      “好的,请多关照……”绮罗子还是一副女.优的可爱模样,点点头。

      我却慌忙挥着手:“呀,不行的不行的。”
      我的不知所措都达到了滑稽的程度。

      “有什么不行的?正因为你顾虑太多,所以才不行。对吧,绮罗子女士。”

      “嗯……奴真挚地邀您共舞。”

      “不行,真的不行,等我熟练了再说吧。”

      “她说请你跳,那就跳嘛!”娜奥米似乎认为这对于我来说十分体面,接着说道,“让治先生老是想和我跳舞是不行的呀——好了,fox trot开始了,走吧,跳舞还是和别人较量比较好。”

      “Will you dance with me?”
      这时,一道这样的声音传来。

      一个年轻的外国人径直走到娜奥米身边,身材高挑、女气十足、脸上涂着白粉,赫然就是刚才和菊子一起跳舞的那个男人。
      他弯着腰,在娜奥米面前屈起身子,笑眯眯地说着什么。可他语速飞快,又滔滔不绝,我只听得懂他厚颜无耻地说“please、please”,大概是在恭维娜奥米吧。
      娜奥米却露出为难的表情,脸涨得像火一样赤红,她那习惯性的发怒也没有了,只是强颜欢笑。虽然想拒绝就可以拒绝,但是要委婉地表述出来还是有一番困难。
      那一瞬间,她一个单词也吐不出来。
      外国人看到娜奥米笑了起来,似乎以为她对自己有好感,便说了句“来吧”,一边做出催促的样子,一边咄咄逼人地要求她回答自己。

      “Yes……”
      娜奥米勉强站了起来,脸颊越发红润,像要燃烧似的赧然。

      “啊哈哈哈哈,那个耀武扬威的家伙,在西洋人面前完全没骨气嘛。”熊谷咯咯地笑了。

      “西洋人的厚颜无耻真让人为难。刚才我啊,真的很无措。”说这话的是菊子。

      “那么,请和我跳一曲?”
      因为绮罗子在等着我,所以无论我是否愿意,都不得不这么说。

      严格地说,在我眼里除了娜奥米以外,没有一个可称为女人。这并不仅限于今天。当然,我看到美人也会觉得漂亮。但是,漂亮归漂亮,我只是想远远地欣赏,连手都不碰一下。
      什列姆斯卡娅女士是例外,但即便如此,我当时所经历的那种恍惚的心情,恐怕也不是一般的情.欲所引起的吧。说是“情.欲”,其实是一种神韵缥缈、难以捉摸的梦幻般的感觉。而且,对方是和我们完全不沾边的外国人,是舞蹈老师——和穿着亮眼衣裳的日本帝剧女.优绮罗子相比,要轻松多了。

      然而令人意外的是,即使舞伴蠢笨如我,绮罗子也跳得十分轻盈。整个身体轻飘飘的,像棉花一样;双手肌肤柔嫩,触感简直像树叶新抽的绿芽。而且她和我呼吸交融,很好地理会我的步伐,有如驾驭良马。
      这么说来,轻盈本身就是一种无法言喻的快感。我的心突然兴奋起来,我的脚自然地踩着活泼的舞步,就像坐上了旋转木马一样,无论跳到哪里,都能顺利地圆滑过去。

      “愉快极了!这太不可思议,太有趣了!”我不由自主地产生了这样的想法。

      “是啊,很厉害的,和你跳一点都不难。”

      ……咕噜咕噜咕噜!
      像在水车之中回转,绮罗子的声音掠过我的耳朵……温柔的、轻微的、甜美的,不愧是绮罗子的声音……

      “没有,没有这回事。你才厉害。”

      “不,真的……”过了一会儿,她又说,“是今晚的乐队奏得好。”

      “啊。”

      “音乐不行的话,再怎么跳也毫无张力。”

      我注意到,绮罗子的嘴唇正好在我的太阳穴下方。我觉得这是这个女人的习惯,就像刚才滨田那样,她的鬓发也一直贴在我的脸颊上。
      轻柔的头发触感……还有从缝隙中漏出来的细微低语……
      对于长期被悍马般的娜奥米蹄声四扰的我来说,那是无法想象的“女人味”的极致——就像被荆棘刺伤的伤口,用手掌亲切地摩挲……

      “我本来是很想拒绝他的,可那个西洋人没有朋友,不同情他就太可怜了。”
      过了一会儿,娜奥米回到桌子前,有些沮丧地辩解着。

      第十六支华尔兹结束时大概是十一点半吧。后面还有几曲番外。
      娜奥米说太晚了想打车回去,我极力劝诱她步行到新桥赶末班电车。最终,熊谷、滨田和女伴们一起把我们送到银座大街那一带。
      大家的耳朵里似乎还回响着爵士乐,只要有一个人唱出某段旋律,女士男人们都跟着一曲一曲地唱下去。对于不会唱歌的我来说,他们的灵巧、好记性以及年轻活泼的声音,只能让我感到嫉妒。

      “啦、啦、啦啦啦!”
      娜奥米和着高调,踩着拍子走路。
      “滨先生,你觉得哪一支比较好?我最喜欢caravan(旅行队)。”

      “噢,caravan!”菊子用疯狂的声音尖叫,“太棒了!那个。”

      “可是,我觉得——”绮罗子接过话头,“我觉得whispering(流言蜚语)也不坏,很容易跳——”

      “蝴蝶先生不是挺好的吗?我最喜欢那一首。”
      然后滨田马上用口哨吹起了《蝴蝶先生》。

      在检票口与她们道别时,我和娜奥米站在冬夜凛风吹拂的站台上等车,没怎么说话。
      大概是欢乐过后的寂寞,这种心情支配着我的心。当然,娜奥米肯定没有这种感觉。

      “今天晚上真有趣啊,下次再去吧。”

      即使她与我搭话,我也只是在口中怏怏地答了句“嗯”。

      什么啊?这就是所谓的舞蹈吗?历经欺骗父母、夫妻吵架、尽情哭笑之后,我体味到的舞蹈会,就是这么愚蠢的东西吗?
      她们只是一群爱慕虚荣、阿谀奉承、自命不凡、又矫揉造作的家伙,不是吗——

      可是,既然如此,我为什么要出门呢?就为了向她们炫耀娜奥米?
      如果是这样的话,那我也是虚荣心作祟。话说回来,让自己如此骄傲的宝物,在他人眼里又是什么样的呢?

      “怎么样,你带着这个女人走出去,果真如你所愿,让世间大吃一惊?”
      我怀着自嘲的心境,忍不住叩问自己的心灵。
      “你、你,所谓盲人摸象,就是你啊。对你来说,这个女人是世界上最大的宝物。但是把这个宝物搬上盛大舞台时又是怎么一个样?”
      “虚荣心和自负的集合体!你说得倒巧,那个集团的代表不正是这个女人吗?一个人自以为是,毫无顾忌地口出恶语。暴露给外人看来,最臭不可闻的人,到底是谁?被西洋人误以为卖.淫,而且连简单的英语都不会说,张口结舌,只有菊子小姐肯跟她打交道。”
      “而且,那个女人的说话方式,是何等的粗鲁。虽然她也想装出一副淑女的样子,但那种口吻根本不堪入耳,菊子小姐和绮罗子不远比她更有魅力吗?”

      我感到不愉快,不知是悔恨还是失望——直到那天晚上回到家为止,这种难以形容的厌恶的心情一直萦绕在我的心头。

      在电车里,我故意坐在她的对面,再一次深切地注视着眼前的娜奥米。
      我究竟是看上了这个女人的哪点,才会如此着迷?是那个鼻子吗?是那双眼睛吗?我数来数去,可不可思议的是,那张总是对我散发魅力的脸,今天晚上却让我觉得没有价值,很无聊。
      于是,在我的记忆深处,我想起了第一次见到这个女人的时候——脑海中隐约浮现出了娜奥米在coffee·diamond工作时的姿态。不过,那时比现在要好得多。那时的她无邪、天真、内向、忧郁,和现在这个粗鲁且狂妄的女人毫无共同之处。我那时迷恋上了娜奥米,这种怠惰的状态也一直延续到今天,仔细想想,不知不觉间,这个女人已经变成了一个令人完全受不了的家伙。
      她端坐在那里的姿态仿佛在说:“伶俐的女人就是我”;那副傲然的面孔好像在说:“天下的美人就是我”、“没有比我更时髦、更西洋味的女人了”。
      可她却连英语的“e”字都不会说,被动语态与主动语态的区别也不知道。别人或许不知道,但我可是清楚得很……

      我偷偷地在脑海里对她进行了这样的辱骂。

      她的身子微微翘起,脸蛋仰面朝天,从我的座位上正好能看见她最引以为傲的狮子鼻,两个西洋味儿的鼻孔黑乎乎地洞开。而且,那洞穴的左右鼻翼厚实。
      仔细想想,我和这双鼻孔算是朝夕相处的密友。每晚每晚,我抱着这个女人的时候,经常从这个角度窥视这个洞穴:像上次那样给她擤鼻涕,爱抚她的鼻子周围;有时还会把自己的鼻子和这只鼻子交错在一起,像楔子一样。也就是说,这个鼻子——这个女人脸上附着的小肉块,就和我身体的一部分一样,绝非他人的东西。
      但是这样想的话,就越发感到憎恶与污秽。饥不择食之时,再难吃的食物也会狼吞虎咽。但随着肚子渐渐饱胀,我突然意识到刚才塞进去的东西有多难吃,胸口恶心得想吐——大概是类似这么比喻的感觉吧。
      一想到今晚还要和这个鼻子面对面睡觉,我就积食到发腻,只想说:“这顿饭已经吃得够多了。”

      ‘这也是母亲对我的惩罚,我欺骗亲人只为体验新奇的事物,却败兴归来。’
      我是这样想的。

      但是,读者们啊,你可不能据此推测我已经对娜奥米厌倦了。不,我自己至今都没有这样的想法,那不过是一时的感触。
      回到大森的家,只剩下两个人的时候,电车里那颗“饱腹”的心就不知渐渐飞到了哪里。又一次的,眼也好、鼻也好、手也罢、足也行,娜奥米的所有部位都充满了蛊惑,而且每一样都是让我无尽回味的无上之物。
      后来,我总是和娜奥米一起去跳舞,每次回家的路上又对她的缺点嗤之以鼻,一定会感到厌恶。但是,这种感情并不会一直持续下去。

      仅在一夜之间,我对她的爱憎之念就几度回转,像猫瞳一样变幻无穷。

      ·

      「さあ、譲治さん、ワン·ステップよ。踊って上げるからいらっしゃい」と、それから私はナミに云われて、やっと彼女とダンスをする光栄を有しました。

      私にしたって、きまりが悪いとは云うものの、日頃の稽古を実地に試すのはこの際でもあり、殊に相手が可愛いナミであってみれば、決して嬉しくないことはありません。よしんば物笑いの種になるほど下手糞だったとしたところで、その下手糞は却ってナミを引き立てることになるのですから、寧ろ私は本望なのです。それから又、私には妙な虚栄心もありました。と云うのは、「あれがあの女の亭主だと見える」と、評判されて見たいことです。云いかえれば「この女は己の物だぞ。どうだ、ちょっと己の宝物を見てくれ」と大いに自慢してやりたいことです。それを思うと私は晴れがましいと同時に、ひどく痛快な気がしました。彼女のために今日まで払った犠牲と苦労とが、一度に報いられたような心地がしました。

      どうもさっきからの彼女の様子では、今夜は己と踊りたくないのだろう。己がもう少し巧くなるまでは厭なのだろう。厭なら厭で、己もそれまではたって踊ろうとは云わない。と、もう好い加減あきらめていたところへ、「踊って上げよう」と来たのですから、その一と声はどんなに私を喜ばせたか知れません。

      で、熱病やみのように興奮しながら、ナミの手を執って最初のワン·ステップを蹈み出したまでは覚えていますが、それから先は夢中でした。そして夢中になればなるほど、音楽も何も聞えなくなって、足取りは滅茶苦茶になる、眼はちらちらする、動悸は激しくなる、吉村楽器店の二階で、蓄音器のレコードでやるのとはガラリと勝手が違ってしまって、この人波の大海の中へ漕ぎ出してみると、退こうにも進もうにも、さっぱり見当がつきません。

      「譲治さん、何をブルブル顫えているのよ、シッカリしないじゃ駄目じゃないの!」

      と、そこへ持って来てナミは始終耳元で叱言を云います。

      「ほら、ほら又すべった! そんなに急いで廻るからよ! もっと静かに! 静かにッたら!」

      が、そう云われると私は一層のぼせ上ります。おまけにその床は特に今夜のダンスのために、うんと滑りをよくしてあるので、あの稽古場の積りでうっかりしていると、忽ちつるりと来るのです。

      「それそれ! 肩を上げちゃいけないッてば! もっとこの肩を下げて! 下げて!」

      そう云ってナミは、私が一生懸命に握っている手を振りもぎって、ときどきグイと、邪慳に肩を抑えつけます。

      「チョッ、そんなにぎゅッと手を握っててどうするのよ! まるであたしにしがみ着いていちゃ、此方が窮屈で仕様がないわよ!………そら、そら又肩が!」

      これでは何の事はない、全く彼女に怒鳴られるために踊っている様なものでしたが、そのガミガミ云う言葉さえが私の耳には這入らないくらいでした。

      「譲治さん、あたしもう止めるわ」

      と、そのうちにナミは腹を立てて、まだ人々は盛んにアンコールを浴びせているのに、どんどん私を置き去りにして席へ戻ってしまいました。

      「ああ、驚いた。まだまだとても譲治さんとは踊れやしないわ、少し内で稽古なさいよ」

      浜田と綺羅子がやって来る、熊谷が来る、菊子が来る、テーブルの周囲は再び賑やかになりましたが、私はすっかり幻滅の悲哀に浸って、黙ってナミの嘲弄の的になるばかりでした。

      「あははは、お前のように云った日にゃあ、気の弱え者は尚更踊れやしねえじゃねえか。まあそう云わずに踊ってやんなよ」

      私はこの、熊谷の言葉が又癪に触りました。「踊ってやんなとは何と云う云い草だ。己を何だと思っているのだ? この青二才が!

      「なあに、ナミ君が云うほど拙かありませんよ、もっと下手なのがいくらも居るじゃありませんか」

      と浜田は云って、「どうです、綺羅子さん、今度のフォックス·トロットに河合さんと踊って上げたら?」

      「はあ、何卒………」

      綺羅子は矢張女優らしい愛嬌を以てうなずきました。が、私は慌てて手を振りながら、

      「やあ、駄目ですよ駄目ですよ」と、滑稽なほど面喰ってそう云いました。

      「駄目なことがあるもんですか。あなたのように遠慮なさるからいけないんですよ。ねえ、綺羅子さん」

      「ええ、………どうぞほんとに」

      「いやあいけません、とてもいけません、巧くなってから願いますよ」

      「踊って下さるって云うんだから、踊って戴いたらいいじゃないの」

      と、ナミはそれが、私に取っての身に余る面目ででもあるかのように、っ被せて云って、

      「譲治さんはあたしとばかり踊りたがるからいけないんだわ。―――さあ、フォックス·トロットが始まったから行ってらっしゃい、ダンスは他流試合がいいのよ」

      “Will you dance with me”

      その時そう云う声が聞えて、つかつかとナミの傍へやって来たのは、さっき菊子と踊っていた、すらりとした体つきの、女のようなにやけた顔へお白粉を塗っている、歳の若い外人でした。背中を円く、ナミの前へ身をかがめて、ニコニコ笑いながら、大方お世辞でも云うのでしょうか、何か早口にぺらぺらとしゃべります。そして厚かましい調子で「プリースプリース」と云うところだけが私に分ります。と、ナミも困った顔つきをして火の出るように真っ赤になって、その癖怒ることも出来ずに、ニヤニヤしています。断りたいには断りたいのだが、何と云ったら最も婉曲に表わされるか、彼女の英語では咄嗟の際に一と言も出て来ないのです。外人の方はナミが笑い出したので、好意があると看て取ったらしく、「さあ」と云って促すような素振りをしながら、押しつけがましく彼女の返辞を要求します。

      “Yes, ………”

      そう云って彼女が不承々々に立ち上ったとき、その頬ッぺたは一層激しく、燃え上るように赧くなりました。

      「あははは、とうとう奴さん、あんなに威張っていたけれど、西洋人にかかっちゃあ意気地がねえね」

      と、熊谷がゲラゲラ笑いました。

      「西洋人はずうずうしくって困りますのよ。さっきもわたくし、ほんとに弱ってしまいましたわ」

      そう云ったのは菊子でした。

      「では一つ願いますかな」

      私は綺羅子が待っているので、否でも応でもそう云わなければならないハメになりました。

      一体、今日に限ったことではありませんけれども、厳格に云うと私の眼にはナミより外に女と云うものは一人もありません。それは勿論、美人を見ればきれいだとは感じます。が、きれいであればきれいであるだけ、ただ遠くから手にも触れずに、そうッと眺めていたいと思うばかりでした。シュレムスカヤ夫人の場合は例外でしたが、あれにしたって、私があの時経験した恍惚とした心持は、恐らく普通の情慾ではなかったでしょう。「情慾」と云うには余りに神韻漂渺とした、捕捉し難い夢見心地だったでしょう。それに相手は全然われわれとかけ離れた外人であり、ダンスの教師なのですから、日本人で、帝劇の女優で、おまけに眼もあやな衣裳を纏った綺羅子に比べれば気が楽でした。

      然るに綺羅子は、意外なことに、踊って見ると実に軽いものでした。体全体がふわりとして、綿のようで、手の柔かさは、まるで木の葉の新芽のような肌触りです。そして非常に此方の呼吸をよく呑み込んで、私のような下手糞を相手にしながら、感のいい馬のようにピタリと息を合わせます。こうなって来ると軽いと云うことそれ自身に得も云われない快感があります。私の心は俄かに浮き浮きと勇み立ち、私の足は自然と活溌なステップを蹈み、あたかもメリー·ゴー·ラウンドへ乗っているように、何処までもするすると、滑かに廻って行きます。

      「愉快々々! これは不思議だ、面白いもんだ!」

      私は思わずそんな気になりました。

      「まあ、お上手ですわ、ちっとも踊りにくいことはございませんわ」

      ………グルグルグル! 水車のように廻っている最中、綺羅子の声が私の耳を掠めました。………やさしい、かすかな、いかにも綺羅子らしい甘い声でした。………

      「いや、そんなことはないでしょう。あなたがお上手だからですよ」

      「いいえ、ほんとに、………」

      暫く立ってから、又彼女は云いました。

      「今夜のバンドは、大へん結構でございますのね」

      「はあ」

      「音楽がよくないと、折角踊っても何だか張合いがございませんわ」

      気がついて見ると、綺羅子の唇はちょうど私のこめかみの下にあるのでした。これがこの女の癖だと見えて、さっき浜田としたように、その横鬢は私の頬へ触れていました。やんわりとした髪の毛の撫で心地、………そしておりおり洩れて来るほのかな囁き、………長い間悍馬のようなナミの蹄にかけられていた私には、それは想像したこともない「女らしさ」の極みでした。何だかこう、茨に刺された傷の痕を、親切な手でさすって貰ってでもいるような、………

      「あたし、よっぽど断ってやろうと思ったんだけれど、西洋人は友達がないんだから、同情してやらないじゃ可哀そうよ」

      やがてテーブルへ戻って来ると、ナミがいささかしょげた形で弁解しているのでした。

      十六番のワルツが終ったのはかれこれ十一時半でしたろうか。まだこのあとにエキストラが数番ある。おそくなったら自動車で帰ろうとナミが云うのを、ようようなだめて最後の電車に間に合うように新橋へ歩いて行きました。熊谷も浜田も女連と一緒に、銀座通りをぞろぞろと繋がりながらその辺まで私たちを送って来ました。みんなの耳にジャズ·バンドが未だに響いているらしく、誰か一人が或るメロディーを唄い出すと、男も女も直ぐその節に和して行きましたが、歌を知らない私には、彼等の器用さと、物覚えのよさと、その若々しい晴れやかな声とが、ただ妬ましく感ぜられるばかりでした。

      「ラ、ラ、ラララ」

      と、ナミは一と際高い調子で、拍子を取って歩いていきました。

      「浜さん、あんた何がいい? あたしキャラバンが一番すきだわ」

      「おお、キャラバン!」

      と、菊子が頓狂な声で云いました。

      「素敵ね! あれは」

      「でもわたくし、―――」

      と、今度は綺羅子が引き取って、

      「ホイスパリングも悪くはないと存じますわ。大へんあれは踊りよくって、―――」

      「蝶々さんがいいじゃないか、僕はあれが一番好きだよ」

      そして浜田は「蝶々さん」を早速口笛で吹くのでした。

      改札口で彼等に別れて、冬の夜風が吹き通すプラットホームに立ちながら、電車を待っている間、私とナミとはあんまり口を利きませんでした。歓楽のあとの物淋しさ、とでも云うような心持が私の胸を支配していました。尤もナミはそんなものを感じなかったに違いなく、「今夜は面白かったわね、又近いうちに行きましょうよ」と、話しかけたりしましたけれど、私は興ざめた顔つきで「うん」と口のうちで答えただけでした。

      何だ? これがダンスと云うものなのか?親を欺き、夫婦喧嘩をし、さんざ泣いたり笑ったりした揚句の果てに、己が味わった舞蹈会と云うものは、こんな馬鹿げたものだったのか?奴等はみんな虚栄心とおべっかと己惚れと、気障の集団じゃないか?―――

      が、そんなら己は何の為めに出かけたのだ? ナミを奴等へ見せびらかすため?―――そうだとすれば己もやっぱり虚栄心のかたまりなのだ。ところで己がそれほどまでに自慢していた宝物はどうだったろう!

      「どうだね、君、君がこの女を連れて歩いたら、果して君の注文通り、世間はあッと驚いたかね?」

      と、私は自ら嘲るような心持で、自分の心にそう云わないではいられませんでした。―――

      「君、君、盲人蛇に怖じずとは君のことだよ。そりゃあ成る程、君に取ってはこの女は世界一の宝だろう。だがその宝を晴れの舞台へ出したところはどんなだったい?虚栄心と己惚れの集団! 君は巧いことを云ったが、その集団の代表者はこの女じゃあなかったかね?自分独りで偉がって、無闇に他人の悪口を云って、ハタで見ていて一番鼻ッ摘まみだったのは、一体君は誰だったと思う?西洋人に淫売と間違えられて、しかも簡単な英語一つしゃべれないで、ヘドモドしながら相手になったのは、菊子嬢だけではなかったようだぜ。それにこの女の、あの乱暴な口の利き方は何と云うざまだ。仮りにもレディーを気取っていながら、あの云い草は殆ど聞くに堪えないじゃないか、菊子嬢や綺羅子の方が遥にたしなみがあるじゃないか」

      ―――この不愉快な、悔恨と云おうか失望と云おうか、ちょっと何とも形容の出来ない厭な気持は、その晩家へ帰るまで私の胸にこびりついていました。

      電車の中でも、私はわざと反対の側に腰かけて、自分の前に居るナミと云うものを、も一度つくづくと眺める気になりました。全体己はこの女の何処がよくって、こうまで惚れているのだろう? あの鼻かしら? あの眼かしら? と、そう云う風に数え立てると、不思議なことに、いつもあんなに私に対して魅力のある顔が、今夜は実につまらなく、下らないものに思えるのでした。すると私の記憶の底には、自分が始めてこの女に会った時分、―――あのダイヤモンド·カフエエの頃のナミの姿がぼんやり浮かんで来るのでした。が、今に比べるとあの時分はずっと好かった。無邪気で、あどけなくて、内気な、陰鬱なところがあって、こんなガサツな、生意気な女とは似ても似つかないものだった。己はあの頃のナミに惚れたので、それの惰勢が今日まで続いて来たのだけれど、考えて見れば知らない間に、この女は随分たまらないイヤな奴になっているのだ。あの「悧巧な女は私でござい」と云わんばかりに、チンと済まして腰かけている恰好はどうだ、「天下の美人は私です」というような、「私ほどハイカラな、西洋人臭い女は居なかろう」と云いたげな、あの傲然とした面つきはどうだ。あれで英語の「え」の字もしゃべれず、パッシヴ·ヴォイスとアクティヴ·ヴォイスの区別さえも分らないとは、誰も知るまいが己だけはちゃんと知っているのだ。………

      私はこっそり頭の中で、こんな悪罵を浴びせて見ました。彼女は少し反り身になって、顔を仰向けにしているので、ちょうど私の座席からは、彼女が最も西洋人臭さを誇っているところの獅子ッ鼻の孔が、黒々と覗けました。そして、その洞穴の左右には分厚い小鼻の肉がありました。思えば私は、この鼻の孔とは朝夕深い馴染なのです。毎晩々々、私がこの女を抱いてやるとき、常にこう云う角度からこの洞穴を覗き込み、ついこの間もしたようにその洟をかんでやり、小鼻の周りを愛撫してやり、又或る時は自分の鼻とこの鼻とを、楔のように喰い違わせたりするのですから、つまりこの鼻は、―――この、女の顔のまん中に附着している小さな肉の塊は、まるで私の体の一部も同じことで、決して他人の物のようには思えません。が、そう云う感じを以て見ると、一層それが憎らしく汚らしくなって来るのでした。よく、腹が減った時なぞにまずい物を夢中でムシャムシャ喰うことがある、だんだん腹が膨れて来るに随って、急に今まで詰め込んだ物のまずさ加減に気がつくや否や、一度に胸がムカムカし出して吐きそうになる、―――まあ云って見れば、それに似通った心地でしょうが、今夜も相変らずこの鼻を相手に、顔を突き合わせて寝ることを想像すると、「もうこの御馳走は沢山だ」と云いたいような、何だかモタレて来てゲンナリしたようになるのでした。

      「これもやっぱり親の罰だ。親を欺して面白い目を見ようとしたって、ロクな事はありゃしないんだ」

      と、私はそんな風に考えました。

      しかし読者よ、これで私がすっかりナミに飽きが来たのだと、推測されては困るのです。いや、私自身も今までこんな覚えはないので、一時はそうかと思ったくらいでしたけれど、さて大森の家へ帰って、二人きりになって見ると、電車の中のあの「満腹」の心は次第に何処かへすッ飛んでしまって、再びナミのあらゆる部分が、眼でも鼻でも手でも足でも、蠱惑に充ちて来るようになり、そしてそれらの一つ一つが、私に取って味わい尽せぬ無上の物になるのでした。

      私はその後、始終ナミとダンスに行くようになりましたが、その度毎に彼女の欠点が鼻につくので、帰り途にはきっと厭な気持になる。が、いつでもそれが長続きしたことはなく、彼女に対する愛憎の念は一と晩のうちに幾回でも、猫の眼のように変りました。

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